HOME > nulldora pages > predictor

予兆

写真と対峙しながら言葉を綴る。頭の中で文脈を作るのではなく、写真を通して吹いてくる風に乗せたり、差し込んでくる影に言葉を忍ばせる。この楽しみは、写真を撮るものの特権だと思う。人の写真でそこまでの思い入れができるのか、私は知らないし試さない。

 そうやって綴られた言葉は、一度一つの形を得ると、もう私とは他人のように 見えるから不思議だ。転校した友達が、まるで知らぬ土地の子供に変わってしまっ たようだ。

 他人の顔をした私の言葉達は、時として私を助けてくれたり、寂しい思いをさせる。  ただ、ただ、そんな言葉達も写真とは友達の関係を続けてくれている気がする。私も自分の写真には、友達のような感情を持つことがある。私と、言葉達の共通の友達が写真であり、私と言葉達は友達の友達というわけだ。

 一枚の写真をさっきから眺めている。夜更けの寒さ。山のシルエット。木の枝も月の眩しさを背負って鋭く黒く輝く。雲は影を内に孕んでいて重たさを増す。言葉たちは慎重で顔を出さない。私は夜更けの寒さを体の中に引き込む。木の枝で目を隠す。雲を突っ込んで口を塞ぐ。私は写真と戯れ続ける。目をつむっても脳の中で延々と夜空が輝く。ようやく一つの予兆に辿り着く。